anotosyositu’s blog

漫画、本、アニメ、ドラマ、ソシャゲ、雑多に好きなものの好きなとこを叫びます。

死んだ親友に告白された話は死の先の日常がこうであれと願いたくなる話だった

投稿時からファンだったかもがわ圭先生の「死んだ親友に告白された話」を読んだ結果、気持ちも涙も溢れすぎ、ツイッターに収まらなかったため久々にここに書き置きにきました……。ネタバレをツイッターに直で書くのはよくないですし。

……が、お酒の力も借りて書いた文を保存し忘れて消失したので泣きそうです。まあ幻だったのでしょう。
久々に楽しく長文綴ったんですが、シラフになると怖くて書けないものですね。ううむ。

さて、本作は生者×死者の2コンビが登場します。

【桃瀬と栗原】
死んだはずの親友から突然告白された栗原。
これで未練はないと消えかけた親友を引き止めるため、
とっさにゲームをしようと提案するが?

【竹村と松田】
生前住んでいた学生アパートで地縛霊をしている竹村のもとに、一人の新入生が越してくるが、なんだか元気がないようで?幽霊先輩とメンタル強めの新入生が織りなすほのぼのシェアライフ!


【桃瀬と栗原 感想】
冒頭に言いたいのはこの作品一応BLなんですが、
内容の本質「大切な人との別れ、その先」です。
大切な人を失ったことがある人はみんな刺さると思うので、普段BL読まないよという方にも手に取ってもらいたいです。

全3話のこの作品は「親友の死」という点ではなく、
そこから続いていく人生に視点を置いた物語です。
大切な人がいなくなっても、残された者の日々は続いていく。二人の日々は自分が残す側、残される側になったとき、こうだったらいいなと願うような優しくて温かいものでした。

人はみんなから忘れられたときに本当の死を迎えるといいます。大切な人が、自分が死んでもちゃんと人生を進んでくれて、それでも自分のことを想い続けてくれるのは 残して行く側の桃瀬にとって幸せなことだろうなと思います。
一方残される側である栗原視点でも、
いなくなった大切な人がずっと見守っているというのは、たとえ夢物語だとしてもそうであってほしいと思います。だって栗原にとって桃瀬のいない日々は続くから、何十年も続くから、こんな奇跡くらいあってもいいじゃない。ほんとにそう思うんですよ。

桃瀬の未練
本作は1冊を通して「未練」というものが鍵になっているように感じます。
告白のあとの「これでもう未練もないや」という台詞も含め、度々「未練」という桃瀬。
でもその表情、口ぶりが寂しく、未練を抱えて、託して人は逝くのだと思ったら目頭が熱くって…。
そもそも未練がなかったらゲームに誘われたあと応じなくて、多分桃瀬も栗原もこの時間が終わらなければいいのにって思ってるんですよね。楽しそうでさ。
でもここではまだ別れがさわやかで、楽しさの余韻が続くような明るい雰囲気なんです。

私が辛いなあと感じたのは3話、就活に行き詰まった栗原を見かねたようにLINEに既読をつけた桃瀬が「朝には消えるから」と言って墓でゲームをする場面です。
1話に比べてずっとずっと二人の顔が寂しげで、
多分会うのはこれがラストってわかってるなって会話なんですね。ここに一番の桃瀬の未練がある気がします。
1話から2年ほど時が進み、明確に桃瀬と栗原の時間軸は離れて行っているんですね。
作中ラストで栗原が言うように現実で助けてくれるのは生きている友人たち。
それをずっとずっとみてきたからあの日の桃瀬には
1話より明確な寂しさが滲んでいたのかなと。
「俺は栗原のやりたいとこが全部叶う人生だといいなと思うよ」。3話桃瀬のセリフです。
本当に一読者の勝手な感想やら解釈で誰も読まない前提のものですが、
この言葉っていろんな葛藤や未練を諦めた先で出てくる、優しい思いだよなあ思っています。
桃瀬にも、栗原との関係だけじゃなく、たくさんの未練があったんだと思うんです。こんな学生生活をして、まあこういう仕事について、人生のぼんやりしたビジョンが。その中に栗原への思いが伝えられても伝えられなくても、休みのたびに集まって、就活では栗原の愚痴を聞きながら励まし合って、就職してからもあーだこーだ言い合って、そんな未来が、あるはずだった。
でもどうあがいても桃瀬自身の人生はもう動かすことができない。こればかりは諦めるしかない。
だからこそ、人は大切な人の幸福を心から祈るのかなと。せめて自分の大切な人には後悔してほしくない、
全部叶えて幸せであってほしい。
それを願う相手が親友の栗原であることが、
どれほど桃瀬が彼を大切に思っていたかの現れだと感じて、もう、私の涙腺はぶっこわれましたよ。はい。

描き下ろしの感想
読んだ瞬間だめーーー、こんなのラストに持ってこられたらだめーーっと天を仰ぎました。
ここから1話につながるんですよ。つらいわ。
素敵な前日譚を生んでくれた作者様に感謝。
わりと想いを軽口の衣で隠してた桃瀬の視点で描かれる高校時代、桃瀬ちゃんと栗原のこと好きじゃん。
ピュアピュアに想いを膨らませてるじゃん。
そしてこれは惚れるって、いや、惚れるわ。
栗原自分のことをすごく過小評価してるけど、
未来も含めてほんとうにいいやつで、優しくて、
男気あるんですよね。かっこいいんですよ。
桃瀬が惚れるのも納得です。こうありたい。
細かいところですが一番泣いたとこが、
受験に向かう車の中で緊張する桃瀬に、
「落ちても死ぬわけじゃないんだから」と笑って送り出すお母さんの台詞です。
すごい肝っ玉母ちゃんって感じで冗談めかして送り出す、仲いいんだろうなって思う場面なんですよ。
一番最悪なこととして引き合いに出した筈の死は、
わずか1年後に降りかかる。
桃瀬が死んだとき、お母さんはどれほど辛かったろうなと思いを馳せて涙が止まらない一コマでした。


【竹村と松田 感想】
桃瀬と栗原の感想にリソースさきまくりましたが、
竹村と松田もめちゃくちゃ好きです。
引っ越してきた部屋に男子学生の幽霊がいるのに、
1ミリも気にしないどころか楽しんじゃう最強女子松田。
でもそんな最強女子松田も、現実の人間関係ではなかなかもがいてると言うのが共感ポイントですね。
ほんとうに、こんなに面白いのよこの子、みんな気づいて。全編コミカルなんですが、二人の間にもお互い生きてたらなってのはあって、最強の仲間になれるのに。
でも、生きてたら絶対に出会わなかったわけで。
死が引き合わせた関係だから。
生前孤独な学生だった竹村の未練が、この愉快なシェアハウスで浄化されていくんですね。
あくまで死と成仏を前提としてるけど、
生きている松田の人生を助け、死んだ竹村の未練を浄化させる関係性。いいなあと思います。
いつか竹村が成仏する日がきても、二人は爽やかな別れができるでしょう。
ほんとにいい関係ですよ。好き。

かもがわ圭先生の作品世界のほろ苦さと優しさ、と可笑しさ。いつ読んでも救われて、忘れられない作品となるものばかりです。うちの部署には中村がふたりおりましてもいつか連載化してくれることを祈りつつ、
素敵な作品を本で読めたことに感謝!!!!!